鹿児島天文館酒場巡礼



続きは「天文館徒然草」でどうぞ

「天文館酒場巡礼」をお楽しみいただいている皆様。
このブログは、2007年〜2008年に南日本新聞夕刊に連載いたしました「大人のための絵本天文館」執筆のための取材ノートを公開したものです。その連載は、2009年5月「大人のための絵本 天文館物語」として上梓されました。皆様のご声援のお陰と、こころより感謝いたします。

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さて、「天文館酒場巡礼」ですが「「天文館酒場巡礼 ごはん編」として、近々に更新再開予定です。今しばらくお待ち下さい。その間は、

清水哲男の「鹿児島天文館徒然草」

でお楽しみください。こちらも天文館の話題満載でお届けしています。
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# by tenmonkan_sakaba | 2010-12-08 10:51 | お知らせ

島にもイノシシはいるのだ

第52回 居食処またぎ

a0070493_14405070.jpg前々から気になっていた。その店の暖簾は、「徳之島産地直送」と染め抜かれていた。が、その下に「またぎ」と大きく店名が。「またぎ」といえば猟師のことだ。イメージとしては東北の村田銃を方に担い、柴犬を引き連れ雪深い山に入り、冬眠している熊を撃つ。そう、熊撃ちに長けた猟師だ。私の中では「徳之島」とまったく重ならなかった。

しかし、店に懸けられた幕には、「いのしし」「猪豚」という文字が躍っている。徳之島でイノシシが獲れる……。いや、そもそも島にイノシシというものが棲息しているのだろうか。疑問は深まっていく。だって、こちらでは昔からイノシシを「山クジラ」というではないか。(写真は大将の永井良徳さんと奥さんの悦子さん。6月いっぱいで店を人に任せて徳之島に帰った。本店があるのだ)

a0070493_14431651.jpg疑問を抱えながら暖簾を割った。生ビールを注文し終えると、やおらたずねた。「徳之島にイノシシがいるのですか」と。店主の永井良徳さんは笑いながら答えてくれた。「いますよ。本土のイノシシより少々小ぶりだけど、ちゃんといますよ」と。考えて見れば島だって山だ。周囲を海に囲まれているだけで……。日本列島って、みんなそうじゃないかと、妙な納得をした。(写真は猪肉の塩焼き)

永井さんの話によると、肉質は本土のイノシシに比べて小ぶりな分、よくしまって淡白なんだそうだ。永井さんは毎年、罠を仕掛けたり、もちろん撃ったりで、30頭ばかりイノシシを捕らえるという。捕らえてさばき、肉にするだけではなく、島豚とかけて猪豚を生産している。写真を見せてもらったが、黒豚よりももっと黒い、真っ黒な猪豚、真っ黒なイノシシといったほうがいいような感じだった。

早速その猪肉を塩焼きにしてもらった。確かに脂は少なく淡白で、その上イノシシ特有の臭みがない。ボタン鍋にしてもうまそうだ。永井さんの話によると「皮の味噌漬け」がうまいらしいが、残念ながら品切れだった。

a0070493_14434578.jpgさらに、「これは徳之島じゃなくて、屋久島のものですけど」と鹿刺しを出してくれた。こちらもとても食べやすい。島にも猟師やイノシシがいるというのは初めて知ったことだったが、その肉のうまさも初体験だった。(写真は鹿刺し)

もちろん徳之島直送の地魚、地鶏の料理もうまいが、まずこの猪肉を食べて欲しい。永井さんはそういって笑ったが、私もその通りだと思った。世の中未知の味はたくさんあるのだ。

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居食処 またぎ
住所 鹿児島市下荒田1丁目5-11-1 有馬ビル1階
電話 099-206-8850
営業時間 午後5時~午前0時
定休日 不定休
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-07-06 14:45 | その他

ただ座って酒を飲むばかりなり

第51回 居酒屋めぐちゃん

a0070493_13345542.jpgよくもまあ、こんな狭い敷地に店を並べたものだ。はじめてその風景に出くわしたとき、正直そう感じた。市電に乗って市内の方々をうろうろしていたんだ。降りたのは南鹿児島駅前。地名でいうと南郡元ということになるのだろう。

南鹿児島駅前電停から二軒茶屋に向かって、旧谷山街道を歩いた。ものの3分も歩かないうちに、その長屋が姿を現した。市電の軌道敷と旧谷山街道の隙間、そう隙間だ、の狭い敷地に7軒もの居酒屋が並んでいた。どの店もおそらく10坪はあるまい。南鹿児島駅から二軒茶屋に向かって、「もぐら屋」「秀ちゃん」「しず」「とまり木」「めぐちゃん」「京子」「ふくちゃん」そんな小さな店が肩を寄せ合うように並んでいるのだ。経営者や店の名前は変わっても7軒の店が並ぶのは、昔からの風景だそうだ。だからこの酒場長屋を土地の人は「七軒長屋」と呼ぶそうだ。

a0070493_13361081.jpg時計を見ると、午後7時前だった。が、店を開けていたのは「めぐちゃん」と「とまり木」の2軒だけだった。飛び込んだのは「めぐちゃん」。なんとなく名前にひかれたのだ。歴史の古い「七軒長屋」で開店して6日目という新しい店だった。東京新宿で酒場をやっていたママが、故郷に帰ってはじめた酒場だ。もとは脇田電停の近くでやっていたらしい。
「でも、店が広すぎてね。人を雇うほどもうからないし…」ということで、「七軒長屋」に越してきたのだと。

たしかに、ここならママ1人でやるには手ごろな広さだ。7人も入れば満席になるカウンターだけの小さな店。奥行きは3メートルほどか。壁の向こうは市電の軌道敷だ。時々市電が通ると、ゴォーと腹の底から響くような音がする。それもまた郷愁そそられるBGMになる。背中は壁1枚隔てて旧谷山街道だ。こちらはひっきりなしに車が通る。いかにも、という感じの酒場らしい酒場だ。

「小さな酒場だからね、たいしたものはないよ」と、手料理を何やかやと出してくれた。品書きを見ると、どれもママの手料理だった。懐かしいクジラのベーコンがあったのでそれをもらう。飲むのはもっぱら焼酎お湯割り。むつかしいことは何もない。ただ、カウンターに向かって座り、小鉢をつつきながらお湯割を飲む。それだけでいいのだ。

a0070493_13371161.jpg「めぐちゃん」はママの名前ではなく、飼い猫の名前だという。名前など聞かなくても酒は飲める。それ以上は聞かなかった。カウンターの端に若い先客がいたが、お茶ばかりを飲んでいる。開店して間もないので、どんな客が来るか不安だからと息子さんが「用心棒」役を買って出ていたのだ。さしづめ私は合格といったところだろうか、にこやかに会話をしてくれた。

開いていたのは2軒だけだったというと、「七軒長屋」の開店は7時過ぎだという。居酒屋なのに遅いじゃないかというと、「だって朝4時までやってるもん」って。7軒とも開店、閉店は同じ時間だそうだ。

昔の話を聞くと、ママは「私も受け売りだけど」と前置きしながら、三和町や真砂で紬の機織をしている職人さんたちが、仕事明けに自転車で飲みにやってくる酒場街だったそうだ。「いまはだいぶ様子もかわったようだけどね」と。

時計を見た。10時をまわっている。3時間も腰をすえたようだ。その間に焼酎の5合瓶を1本と、会話をたっぷり。7軒とも入って見るつもりだったが、またにしよう。今夜はこれくらいで……。

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居酒屋めぐちゃん
住所 鹿児島市南郡元27-31
電話 099-286-4539
営業時間 午後7時~午前4時
定休日 日曜日
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-06-15 13:47 | その他

ちゃんと仕事ができる余裕

第50回 食遊び 味彩

a0070493_9575418.jpg「食遊び」、肩につけられたひと言が気になった。

この店を紹介してくれたのは、いつものバー、ブルージー・タヴァーンのマスターだ。だから味に間違いはあるまいと思って、家人と2人で出かけた。思っていた通り、電飾の看板も自らの存在をことさら強調せず、控えめに灯っていた。山之口本通に面したビルの1階だ。

が、その「食遊び」というひと言にひっかかったのだ。マスターの話では「ちゃんとした和食の店ですよ」ということだったので、私はふつうの割烹を思い描いて店の前に立ったのだ。が、「食遊び」は、いま流行の「創作料理」の店を思い描かせた。

一瞬ためらったが、ここまで来たんだもういいやと、思い切って暖簾を割った。土曜日の午後8時前。食事の時間には少々遅いから、きっと空いているだろうと……。が、カウンターはほぼ満席。小座敷も満席だった。客層はなかなかいい。ただ、同伴出勤前の食事という感じの何組かが気になる程度だった。

しかも、満席に近く、忙しいにも関わらず、ホールの係りの女性がこちらを認めるや、すぐに「いらっしゃいませ! 何名様ですか」と駆け寄るようにして来てくれたことが、私を安心させた。往々にしてこんなとき新規の客、しかも初めての客など無視されがちなのだが……。それだけでも、この店がきちんとした店であることを物語っているなと思わせる。

a0070493_133413.jpg「2人ですが」というと、「はい、お部屋がご用意できます」と。
通されたのは、いちばん奥の、小座敷よりも一段高くなった2畳ほどの方丈の間だった。床もあり、ちょっとした茶室という感じだ。家人を上手に座らせ、私は入り口に近いところに。先ほどの女性がすぐにおしぼりを持ってもどってきた。飲み物はとたずねるので、生ビールの小を2杯と、品書きにあった「八海山」の純米大吟醸を2合、それに刺身の盛り合わせを頼んだ。ビールは瞬時に出てきた。

品書きを見ていると焼酎はもちろん、清酒も幾種類かあり、さらにワインも用意されていた。2人でぶつぶつ言いながら品書きを見ていたら、女将さんらしき和服姿の女性が「八海山」を運び、上がり口で「本日はようこそお越しいただきました」と丁寧に挨拶を。よく見るとその女将、私がいつものバーで外が明るいうちから飲んでいるときに、いそいそと出勤するのを何度も見かけたことがあった人だった。向こうはそんなこと知る由もないだろうが。

a0070493_1343189.jpgビールといっしょに出てきたお通しは、ふぐの皮の煮凝りと、もやしと付け揚げをピリッと炒めたもの、さらにひじきを煮たもの。追いかけるように刺身が出てきた。サバ、サーモン、カンパチ、ミズイカ、マグロ、カイバシラ、シタガイ、それにボタンエビ、シマアジの薄造りと9点盛りだ。豪勢だな。しかし、下手な寿司屋で食べるよりもうまかった。どれも下ろしたてというより、しっかり時間をおいて、まさに造ってある。さばいて、切って、盛ってだけでなく、ちゃんと仕事がしてあるということだ。

魚のうまさも手伝って酒2合などあっというまだった。同じ「八海山」をもう1合頼むついでに、家人が春野菜のかき揚げを注文する。これまたすぐに揚がって出てくる。つけ出汁もよい加減に温めてある。が、なんといっても塩だ。春野菜は苦味がいい。油もしっかり切れている。当たり前のことが、当たり前にきちんとされている。マスターが紹介してくれたことにもうなずけた。

a0070493_1352080.jpgさて、ずっと気になっていたことがあった。清酒の品書きに「嘉泉 極めつけ辛口」というのがあった。しかも東京の醸造酒だ。純米酒や吟醸酒が並ぶ中、しかも有名な銘柄が並ぶ中、なんだか「これ、飲んでみろ」と挑発されているようで、じゃあということで、それを1合とソラマメの塩焼きを。
この酒、正直にいって驚いた。口に含むときに空気といっしょにずずっとすすっる。さらに空気を入れるようにして口の中で転がす。実に辛い。そしてうまい。これほど辛い酒は、能登半島は門前の「亀泉」以来だ。この酒を飲みに来るだけでも価値のある店だ。

聞けば大将五反田実さんは、現在50歳ちょっと手前。料理人としても脂ののりきったキャリアだ。この店を開いて15年くらいになるという。この競争の激しい天文館で15年。なるほどとうなずくしかないなと思った。

a0070493_1310689.jpgところで「食遊び」だが、品書きには実にいろんな料理が書き込まれていた。ビーフシチューや豚足まで……。余裕だな、と思った。ちゃんと仕事ができるからこそ、「食遊び」などという余裕が語れるようになるんだ、きっと。

また、通いたくなる店が1軒増えた。


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食遊び 味彩
住所 鹿児島市千日町9-3 天文館K・BLD1階
電話 099-226-7560
営業時間 午後5時〜午前0時
定休日 月曜日
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-04-07 13:07 | 千日町

みなさまの大衆食堂

第49回  天文館むじゃき

a0070493_10354169.jpg昔、といっても昭和30年代から40年代にかけての話だ。天文館には「本田食堂」「大天食堂」「無邪気」「池田食堂」「第一食堂」「まるぜん食堂」「梅八食堂」「中村食堂」「ハッピー食堂」などといういわゆる大衆食堂が人気を集めていた。

その「無邪気」が、いまの「天文館むじゃき」だ。
「天文館むじゃき」は、大衆食堂「無邪気」として昭和21年(1946年)、名山町で産声を上げている。その後その大衆路線をずっと走ってきたことになる。「天文館むじゃき」というと「白熊」と即答する人が多いし、「白熊」というと「むじゃき」と答える人が多いが、実際に店に足を運んだ人ならご存知だろうが、「白熊」は呼び名のユニークさがインパクトとなり、「天文館むじゃき」を全国的に有名にしたひとつの象徴に過ぎない。食べ歩きのタレントではないが、「まさに食の遊園地」という感じだ。その後24年(49年)に天文館千日町に移り、38年(63年)に名称を「天文館むじゃき」に変えている。

a0070493_10361170.jpg先にも紹介したけど、大勢の人は「白熊」の店だと思い込んでいるようだが、昔の大衆食堂、街のレストランの最後の生き残りだ。1階は午前11時の開店だけど、日・祝日、そして7月、8月のふた月はなんと午前10時に開店している。もちろん「白熊」目当ての客が多いことを想定してだろう。

「白熊」はレギュラーとベビーのふたサイズある。レギュラーが各683円。ヘビーは483円。これに白玉やプリン、ヨーグルトがのるとそれぞれ788円、583円になる。「焼酎みぞれ」(630円)という鹿児島らしいものまである。ちなみにレギュラーサイズは2人で1個を食べてもかまわないのだ。

だが、私のおすすめは、生ビールセットだ。中ジョッキに枝豆とギョーザがセットになっていて、さらに焼豚、春巻、バンバンジー、サラダから好きなものを1品選べる。それで924円だ。隣のテーブルで「白熊」に奇声を発する女の子たちを横目で見ながら、昼間からぐっと飲む生ビールはなかなかいける。

a0070493_10364983.jpg「天文館むじゃき」はいまや、「白熊」から「お好み焼き」「焼き鳥」「中華」「洋食」「てんぷら」「しゃぶしゃぶ」など、大阪でいうなら「くいだおれ」のような、デパートの大食堂が一軒のビルになったような何でもありの大型大衆向けレストランになり、大型ショッピングセンターに支店を出したり、テイクアウト、宅配、通販など多角的に事業を展開している。

こういう大衆的で、手軽で、気軽なレストラン。がんばってほしいな。


天文館むじゃき
住所 鹿児島市千日町5-8
電話 099-222-6904
営業時間 11:00〜22:00(日・祝日、7〜8月は10:00開店)
定休日 無休
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-04-01 10:34 | 千日町

「さあさ、たもいやんせ」

第48回 湯どうふのごん兵衛

a0070493_12492817.jpg昨年末、天文館でみんなに愛されかわいがられていた犬が亡くなった。「湯どうふのごん兵衛」のお母さん、久保享子さんがかわいがっていた「ごんちゃん」だ。昼間はお母さんとよく天文館を散歩していたし、夕方店が開くと、店の前でお母さんの仕事を見守るように待っていた。そんなごんちゃんの前に腰を下ろし頭やからだをなでていくひとは老若男女を問わず多かった。ごんちゃんの姿が見られなくなって、天文館の古い店の看板の灯がひとつ消えたような、そんなさみしい気分になった。

しかし、「湯どうふのごん兵衛」は元気に営業を続けている。創業大正7年(1918年)というから、今年で90年になる。創業当時は電車通りの南側にあったらしい。それが戦災で焼けて、昭和24年(1949年)に今の場所で再開した。その通りが「グルメ通り」などと呼ばれるようになるずいぶん前だ。

a0070493_12501799.jpg長い暖簾を割って中に入ると、厨房を囲むように「U」の字型のカウンターに木製の丸イスが20席並んでいる。壁には古くから多くの俳優やタレント、歌人、作家たちが訪れていることを物語るようにサインや色紙が飾られている。読めなくなったほど古いものや、最近のものまでずらっと。

席に腰を下ろすと、客はまず飲み物と串を数本注文する。その間に湯どうふが準備される。私はギンナンとキビナゴの串と焼酎のお湯割りを頼んだ。それをやりながら待っていると、カウンターのガスコンロに火が入り、湯どうふが入ったアルマイト製の鍋がおかれる。

a0070493_12504190.jpgごん兵衛の「湯どうふ」は、基本的に昔とは変わっていない。とうふは特注で、一人前ちょうどスパーで売っているもののちょうど一丁分くらいはある。そこに春菊、豆もやし、ホタテ、エノキ、オクラ、ギンナン、ヤマイモ、シイタケなどが入っている。とうふは昔懐かしい硬いめの木綿どうふ。かごしまでは「おかべ」という。「白壁」に似ているところからそういうそうだ。とうふは波形の包丁で切られている。その方がつけダレのつきがよく、おいしくなるそうだ。

「さあさ、たもいやんせ」

享子母さんは昔からのきれいな薩摩弁を語る。私はたまたま70歳になる男性ととなりあわせた。お母さんとその客の会話はまったくといっていいほどわからなかったが、なにか優しい音楽を聞いているような気分になった。
客が地元の人間であろうが、ヨソ者であろうが、いっさい関係ない。あるがままの姿で、毎晩客たちに優しく声をかけ続ける。(本文/天文館の犬)


湯どうふのごん兵衛
住所 鹿児島市東千石町8-12
電話 099-222-3867
営業時間 17:00~23:00
定休日 日曜日
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-02-01 12:51 | グルメ通り

女性らしい優しい店で飲む女酒

第47回 焼鳥処ちゅう馬

a0070493_13444365.jpg串焼き屋というと、どちらかといえば店内はスモーキーで、働いているひとたちも男性が多い。で、威勢がよくないとダメみたいな。しかし、女性だけで切り盛りする雅やかな串焼き屋があるのをご存じだろうか。

天文館は山之口本通を文化通りから少し二官橋よりにいくと、ビルの地下にその店「ちゅう馬」がある。地下に降りる階段の入り口には「名物炭焼 焼鳥処 ちゅう馬」と控えめに電飾看板が。長い暖簾を割って階段を下りると、両側の壁は割竹の塀を模してある。それだけで普通の串焼き屋でないと予感させる。そして途中の踊り場には広島の銘酒「酔心」の樽が何気なくおかれている。

a0070493_13452717.jpg女将の中馬孝子さんが30年前にご主人といっしょに開店させた。が、ご主人は病に倒れられて、いまはアルバイターの直美ちゃん(アルバイターといっても11年目だとかで、「影のオーナー」などと口さがない客にはいわれている)と2人で切り盛りする。店内は15、6人は座れるだろうか長いカウンターと、テーブルが2席。満席になると20人を超えるわけだが、それでも2人はにこやかに動き続けている。

看板通り、焼き物はすべて炭焼だ。串も1本105円から500円以上のものまでいろいろある。私のおすすめは、ギンナン、つくね、ささみ梅焼、とりわさ、そして納豆巻きだ。とくに納豆巻きはいい。納豆をていねいにのりで巻き、それを串に。それから、めざしもいい。少し前まではカウンターに小さな七輪をおいて自分で焼かせてくれたが、いまは焼いたものを出してくれる。


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飲み物は、絶対に「酔心」の樽酒だ。一合升に入れて飲ませてくれる。樽の木の香りが酒の味を引き立てる。岡山、広島、山口あたりでは古くから酒造用のいい米を作っている。昼夜の寒暖差が大きいからいい米ができるのだ。それに水。とくに広島の水はいいと聞く。灘の水が硬水で、その酒を男酒というのに対して、広島の水は軟水で女酒というそうだ。その「酔心」を女性だけで切り盛りする店で出す。いい感じだ。

女将さんが広島県三原の出身で、蔵元から送ってもらっているそうだ。中には新しい樽が入ると、その上澄みをわざわざ飲みに来る客もいるとか。鹿児島にも清酒好きが多いということだ。私もはみ塩だけで何杯も飲んでしまいそうだが、3合も飲むとふらふらになる。そして何よりも、女将と直美ちゃんの丁々発止のやりとりを聞きながら飲むのがうまい。
女性ひとりでも安心して入れる優しい店だ。(本文/天文館の犬)

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焼鳥処ちゅう馬
住所 鹿児島市山之口町8-24 まるはビルB1
電話 099-224-0736
営業時間 18:00〜23:00
定休日 日曜日・祝日
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-01-29 13:47 | 山之口町

ラーメン屋で焼酎と人生の話を

第46回 ラーメン呑竜

a0070493_10595190.jpg5年ほど前のことだ。私は、この店の「呑竜」という看板を見て、咄嗟に暖簾を割って飛び込んだ。店内には客はいなかったが、あまりの私の勢いに亭主、丸田常道さんは声もなくただ立ちつくしていた。「いらっしゃい」という声が出るまで、10秒ほどかかったかもしれない。私は私で、飛び込んでからそこがラーメン屋だと知った。

長いカウンターが1本だけ。10人以上は座れるだろう。私は亭主が作業をする寸胴の前に陣取った。なぜ私が「呑竜」という名前だけを見て飛び込んだのか、それには理由があった。今をさかのぼること60年以上前の話だ。当然私の話ではなく、私の父親の、だ。

a0070493_11115044.jpg父親は今年81歳になる。が、戦争には行っていない。技術者として旧中島飛行機系列の工場で飛行機をつくっていたのだ。最初は通称「赤とんぼ」という練習用複葉機をつくっていたそうだ。だが、昭和17、8年頃から爆撃機をつくりはじめたという。

「練習機なら人を殺すことはないが、爆撃機はいやだった。人殺しの道具だからな」が父の口癖だった。父によく聞かされた「呑竜」という名前を見た瞬間、私はその店の誰かがその爆撃機に関わった人なのだと思った。そして、話を聞いてみたいと。ひょっとすると、父の同僚かもしれない、と。

そんなことを勢いよく話すと、亭主は声を上げて笑った。

「時々そういう方が入ってこられますけど、残念ながら、違うんです」

じゃあ、「呑竜」という店名の由来はと聞くと、またまた笑いながら答えてくれた。

「私がとんでもない呑兵衛、女房が龍年生まれ。2人あわせて呑竜。ね」と。

a0070493_112185.jpgなんだ、そういうことか…。私はずいぶん気落ちしたことをおぼえている。
では仕方がないということで、ギョーザと焼酎を頼んだ。ギョーザは480円。焼酎は250円だ。しかも皿に受けてこぼしてくれる。焼酎は4杯くらい飲んだだろうか。けっこう酔えた。では最後に、せっかくだからラーメン(580円)を、と。

鹿児島特有のとんこつスープを想像していたのだが、まったくちがった。醤油ベースのあっさりしたスープだった。麺は細麺を少々硬めにゆでる。もやしも注文を受けてから湯通しする。しゃきしゃきだ。チャーシューは、腿肉だろうか、脂は少ない。生姜と醤油の味がしっかりついている。それに、椎茸、シナチク…。あれっ、と思った。

たいがいラーメンを食べた後、ぐっと1杯水を飲みたくなるんだけど、ここのラーメンはそうはならない。つまり、塩辛くないのだ。

「どう、あっさりしたスープでしょ。辛くもないし、のども渇かないよ」
亭主はわらった。聞けば化学調味料を一切使っていないという。だから優しい味だったんだ。亭主の話をかいつまんで書く。

a0070493_113215.jpg結婚して初めて店を開けたのは1975年6月。鴨池だったそうだ。結婚前、奥さんは栄養士として、県の栄養指導車に乗って県下一円を栄養指導してまわっていたそうだ。で、2人は化学調味料を使わずに鰹、昆布、椎茸など自然の素材だけでスープができないかと、ずいぶん工夫と苦労を重ねたそうだ。それで出来上がったのがいまのスープだ。店はその後1980年に現在の場所に。しかし、奥さんは7年前、2001年に亡くなってしまった。

「このスープがね女房の形見なの。だから、私ゃあ、毎日女房に会ってるんですよ」
そういって笑う亭主の顔は、スープの味そのもの、優しかった。ラーメン屋で人生の話を聞きながら飲む焼酎。けっこういける。

ところで、開店当時の暖簾、寸胴など調理器具の一部は、横浜のラーメン博物館に陳列されているそうだ。(本文/天文館の犬)

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ラーメン呑竜
住所 鹿児島市東千石町7-1
電話 099-224-1590
営業時間 11:00〜15:00/18:00〜22:00
定休日 日曜日、毎月15、23,29日
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# by tenmonkan_sakaba | 2008-01-18 11:05 | 東千石町

蕎麦は手繰るってんだ

第45回 天神房丸新

a0070493_9594641.jpg私にはかつて、鹿児島に30歳以上年の離れた友人がいた。「かつて」とはいっても、亡くなったわけではない。御年84歳にして東京は三鷹市でご健在だ。いまも時折手紙のやりとりだけはしている。

友人といったが、私からすれば少々はばかられる。30年前に国立国会図書館司書の座を辞して、鹿児島短大に図書館学の教授として単身赴任した経歴をもつ。97年に定年を迎えて退職するが、その後も4年間、鹿児島の図書館充実のためにさまざまな仕事をしていた。「離島にこそ図書館を」「僻地にこそ図書館を」が彼の口癖だった。

その「先生」に教えてもらった。「蕎麦は『食う』じゃなくて、『手繰る』ってんだ」と。粋な人だった。気持ちのいい江戸弁で、ぴしゃっと自分の考えをいい放つ。

「鹿児島の蕎麦は蕎麦じゃねぇ。あんなぼそぼそなもん、食えるたもんじゃねぇ。蕎麦ってのは、さっと手繰って、ずずっとすする。噛んじゃだめだぜ。そのままのどに通すんだ。のど越しがいいってのは、のどをきれいに掃除してくれるってことなんだよ」

a0070493_1035560.jpg「鹿児島のやつはいけねぇな。蕎麦屋を飯を食うところだと思ってやがる。ありゃあ、一杯やるとこだぜ。で、最後に蕎麦だ。そういうのを粋ってんだ。おぼえときな」

私は「先生」の教えを守っている。となると、この蕎麦屋「天神房丸新」しかあてはまらない。なんでも昔はほかの鹿児島の蕎麦屋と同じような店だったという。しかし、息子さんが修行に出て、きちっと蕎麦を学んで帰ってきたそうだ。いまじゃ、鹿児島で酒をゆっくり楽しめて、最後に蕎麦をいただける、私にとっては唯一の店になっている。

酒は菊正宗の樽酒を冷やしていただく。よく冷やした錫のとっくりによく冷えた酒。あては、そうだな、焼き海苔なんかが手っ取り早くていい。二層になった桐の箱に入ってくる。下の段には小さな炭火が。ふたをしたまま1、2分待つと、こんがりといい感じになっている。それで一杯やっている間に、湯葉刺しがくる。生湯葉の刺身だ。ほかにも湯葉刺しを出す店はあるが、ここのやつがいちばんうまい。

a0070493_1012759.jpgまだもうちょっと飲みたいときは、蕎麦の実と三ツ葉を薄揚げにはさんで焼いたやつがいい。蕎麦の実の香ばしさと三ツ葉の香りで酒がすすむ。しかし、2合くらいでやめとこうか。蕎麦屋で酔っぱらっても恥ずかしい。

最後に「せいろもり」。更科もいいが、私は「せいろ」がいい。のど越しに蕎麦の香りがつーと鼻に抜けてくる。鹿児島のほかの店では、これは楽しめない。また切り方がいい。細く、しかも均一に。ということは「のし」も均一だということだ。舌触りは機械打ちにはないザラッとした感じがのこっている。これが「先生」のいう「のどをきれいに掃除」してくれる仕掛けだ。出汁も甘くない。

これを「先生」と昼間の3時くらいからやっていた。なかなか優雅な生活だった。「先生」が東京に帰ってからも、私は時々この店で昼間から飲んでいる。(本文/天文館の犬)


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天神房丸新
住所 鹿児島市東千石町8-22
電話 099-222-4565
営業時間 11:00〜22:00
定休日 月曜日
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# by tenmonkan_sakaba | 2007-12-24 10:02 | ぴらもーる

知らない人はいない有名店

第44回 おでん専門店・味の四季

a0070493_1083561.jpgこの店の社長とはいろんな飲み屋でよく顔をあわせる。そのたびにいわれるんだ。
「清水さん、あんたもっと天文館を上手に紹介してくれなくちゃ。うちみたいな店を、ちゃんと書いてよ」って。

それに私は、「昼間から落ち着いて飲める店がない」と、あちこちでよくぼやく。それについても、社長は怒る。
「何いってんだか、うちは午前11時に店を開けるんだよ。昼間っから、堂々と飲んでくれりゃあいいじゃないか」

前置きはそれくらいで。私は鹿児島のおでんといえば、味噌おでんばかりだと決めてかかっていた。が、ここのおでんは醤油出汁だ。確かに牛スジ、ジャガイモは味噌出汁だが、それ以外は醤油出汁でしかもとてもあっさりした味付けだ。そうそう、豆腐は湯豆腐になっていて、皿にのせてからゆず味噌と小ネギをのせる。これが香りがよくてとてもえまい。

a0070493_1092790.jpg自由人を気取る私は、早い日には昼過ぎに天文館あたりに出てきて、本屋や古本屋、そして中古レコード屋を巡ったりする。いいものが見つかったりすると、わくわくしてどこかに落ち着いて一刻も早く手に入れたものをひろげたくなる。そういったとき、天文館にふさわしい場所があまりないのだ。

古い言葉だが純喫茶も少ないし、ジャズ喫茶もない。だから、勢い昼間から飲めるそば屋などに足が向くのだ。「だから、うちの店が開いてるっていうのに…」と社長にしかられそうだが、この店はカウンターがいいんだ。ぐつぐつしているおでん鍋を眺めながら瓶ビールを…。そうなると手に入れたものは足下に置きっぱなしにされて、間の悪いときは忘れ物に成り下がってしまう。まあ、自分の所為だけど。

私が決まって頼むのは、写真の通り。まず厚揚げ、大根、ロールキャベツ。それでビールを1本。さらに、玉子に豆腐。これでまた1本。込んでいればとっとと食べて飲んで出て行くが、ゆったりしているときは、買ってきた本を取り出してぺらぺらめくったり、次に向かう店が開く午後5時を待つ。

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でもね、長居するとしかられそうだから、できるだけ早く切り上げるようにはしているけれど…。おでんは150円から。豚骨や酒寿司などという薩摩家庭料理も楽しめる。1階は目の前がおでん鍋。2階に上がるとネタケースがあって、焼き鳥、串焼きを焼いている。

50年の歴史を誇る、天文館では知らない人はいないといっていいくらいの有名店だ。だから、なかなか書かなかったんです。(本文/天文館の犬)



●味の四季
住所 鹿児島市千日町4-15
電話 099(224)6626
営業時間 11:00〜23:00
定休日 火曜日
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# by tenmonkan_sakaba | 2007-12-02 10:11 | 千日町


天文館酒場ガイド
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へべれけになってるのは
天文館の犬=清水哲男
1954年 京都市生まれ 同志社大学文学部哲学及び倫理学科専攻卒業
卒業後職を転々とし各地を放浪の後、1980年頃より執筆活動をはじめる。
主に市井の人々の暮らし、労働の現場に入り、自分が見たこと、聞いたこと、体験したことを頼りに思考し書き続けている。1997年より鹿児島市在住。
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放浪ネコ=能勢謙三
1950年9月、鹿児島市生まれ。
一応、市内の会社に勤めながら、盛り場探訪を第2の仕事とする。
天文館に限らず騎射場、西駅付近にも夜な夜な出没。
アトランダムに歩き回ってはダラダラ酒を飲み、街と人を観察している。 野宿することもしばしば。
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