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鹿児島天文館酒場巡礼



隠れ家でゆっくり味わう酒と空気

第43回 菜菜かまど

隠れ家でゆっくり味わう酒と空気_a0070493_15315474.jpg 京都などと比べると天文館に路地は少ない。通りが通り、すべて目抜き通りのようなのだ。だが、その天文館に、隙間ほどの路地があり、そこにとびきりの料理店がある。

 ある夜のことだ、その路地をのぞき込んでみた。小さな民家があるだけで、まさか店などあるわけが…、と思っていたのだ。が、小さな行燈に「菜々かまど」というという文字が浮かび、人目をはばかるような小さな暖簾がかかっていた。玄関入り口の大きさは3尺6尺ほど。5、6人も入れば満席になる、カウンターだけの小さな店かも知れない。そう思いながら戸を引いた。

 予想に反して店内は広かった。たしかにカウンター席だけだが、奥行きが60センチはあろうかというゆったりした、しかも分厚いカウンターだった。1人客向きだ。それだけでうれしくなる。

 一見だがいいかとたずねると、どうぞとうぞと席に通してくれた。小料理屋というより、割烹といったほうがいいかもしれない。しかし、こんな路地の奥に、と不思議さも手伝って店内をきょろきょろしていた。ネタケースには鯖、鯛、間八、蛸、水烏賊が下ごしらえされて並んでいる。キビナゴは丸のまま光っている。新鮮だな。一目見てわかった。

隠れ家でゆっくり味わう酒と空気_a0070493_15324736.jpg 壁にはその日のおすすめを書き込んだ黒板が。それ以外に品書きはない。私は鯖を注文した。
 「首折れですよ。うまいっすよ」
 大将は笑いながらネタケースから鯖を取り出し、手際よく切る。女将さんだろうか、お通しを出しながら「お飲み物は?」と聞く。焼酎は何があるかたずねると、「三岳」と「八幡」だけだという。私は迷わず「八幡」をお願いした。

 「八幡」は薫り高い焼酎だ。いや、臭いといってもいい。だが、焼酎はこれくらいの薫りがないと飲む意味がない。最近そう思うようになった。私の最近の飲み方だが、氷を1個だけいれたグラスに注ぐ。そして水を少々。それを混ぜずにゆっくり飲む。お湯割りだと薫りが立ちすぎる、水割りだと薫りが死ぬ。ロックだと少々きつい。この方法なら、薫りも十分楽しめるし、たかが1パイの酒だが、飲み進むとグラスの中で味が微妙に変化しておもしろい。

 出てきた首折れ鯖はさばいてから少々時間をおき、ちょうどいい塩梅に旨味が出ている。鯖はとくにその加減が難しい。ちゃんと仕事がしてあるということだ。わさびを少々乗せ、醤油は使わずに。これがうまい。

隠れ家でゆっくり味わう酒と空気_a0070493_15335320.jpg 観光客と勘違いしたのか、大将は目の前でさばいたキビナゴをごちそうしてくれた。刃物は使わず指でさばいてゆく。鮮やかな手仕事だ。
 「新鮮だから、丸のママでもたべられますよ」と頭と腸を取っただけの、骨付きも出してくれた。これを生姜醤油で。骨がこりこりしてとてもうまい。

 聞けば2回は座敷になっていて、その夜は宴会が入っていた。しかし、大人数の料理もすべて大将が1人でこなす。黙々と仕事をする姿に、ある種男らしさを感じた。

 おすすめは、とたずねると、「トビウオのつけ揚げがうまいっすよ」と。もちろん自家製だ。しかも、あちこちで見かけるつけ揚げは小判形、棒形が多いが、ここのそれはまん丸だった。中まで火を通すのに、中火にかけた油でじっくり15分上げる。外はカリカリ、中はしっとりして、しかも甘くなく、魚本来の味が生きているように感じた。

 焼酎を2合、首折れ鯖の刺身、飛び魚のつけ揚げ、それで3000円ほどだ。同席したお客さんたちも愛想のいい人たちばかりだった。
 隠れ家のような店に足繁く通う人たちだ。料理がうまいのはもちろんのこと、酒と雰囲気が好きなのだろう。2度、3度と足を運びたくなる店だ。(本文/天文館の犬)


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●菜菜かまど
住所 鹿児島市山之口町10-18
電話 099(225)7588
営業時間 18時〜24時
定休日 日曜日・祝日
by tenmonkan_sakaba | 2007-11-03 15:36 | 山之口町
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天文館酒場ガイド

by tenmonkan_sakaba
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へべれけになってるのは
天文館の犬=清水哲男
1954年 京都市生まれ 同志社大学文学部哲学及び倫理学科専攻卒業
卒業後職を転々とし各地を放浪の後、1980年頃より執筆活動をはじめる。
主に市井の人々の暮らし、労働の現場に入り、自分が見たこと、聞いたこと、体験したことを頼りに思考し書き続けている。1997年より鹿児島市在住。
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放浪ネコ=能勢謙三
1950年9月、鹿児島市生まれ。
一応、市内の会社に勤めながら、盛り場探訪を第2の仕事とする。
天文館に限らず騎射場、西駅付近にも夜な夜な出没。
アトランダムに歩き回ってはダラダラ酒を飲み、街と人を観察している。 野宿することもしばしば。
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