第47回 焼鳥処ちゅう馬
串焼き屋というと、どちらかといえば店内はスモーキーで、働いているひとたちも男性が多い。で、威勢がよくないとダメみたいな。しかし、女性だけで切り盛りする雅やかな串焼き屋があるのをご存じだろうか。
天文館は山之口本通を文化通りから少し二官橋よりにいくと、ビルの地下にその店「ちゅう馬」がある。地下に降りる階段の入り口には「名物炭焼 焼鳥処 ちゅう馬」と控えめに電飾看板が。長い暖簾を割って階段を下りると、両側の壁は割竹の塀を模してある。それだけで普通の串焼き屋でないと予感させる。そして途中の踊り場には広島の銘酒「酔心」の樽が何気なくおかれている。
女将の中馬孝子さんが30年前にご主人といっしょに開店させた。が、ご主人は病に倒れられて、いまはアルバイターの直美ちゃん(アルバイターといっても11年目だとかで、「影のオーナー」などと口さがない客にはいわれている)と2人で切り盛りする。店内は15、6人は座れるだろうか長いカウンターと、テーブルが2席。満席になると20人を超えるわけだが、それでも2人はにこやかに動き続けている。
看板通り、焼き物はすべて炭焼だ。串も1本105円から500円以上のものまでいろいろある。私のおすすめは、ギンナン、つくね、ささみ梅焼、とりわさ、そして納豆巻きだ。とくに納豆巻きはいい。納豆をていねいにのりで巻き、それを串に。それから、めざしもいい。少し前まではカウンターに小さな七輪をおいて自分で焼かせてくれたが、いまは焼いたものを出してくれる。
飲み物は、絶対に「酔心」の樽酒だ。一合升に入れて飲ませてくれる。樽の木の香りが酒の味を引き立てる。岡山、広島、山口あたりでは古くから酒造用のいい米を作っている。昼夜の寒暖差が大きいからいい米ができるのだ。それに水。とくに広島の水はいいと聞く。灘の水が硬水で、その酒を男酒というのに対して、広島の水は軟水で女酒というそうだ。その「酔心」を女性だけで切り盛りする店で出す。いい感じだ。
女将さんが広島県三原の出身で、蔵元から送ってもらっているそうだ。中には新しい樽が入ると、その上澄みをわざわざ飲みに来る客もいるとか。鹿児島にも清酒好きが多いということだ。私もはみ塩だけで何杯も飲んでしまいそうだが、3合も飲むとふらふらになる。そして何よりも、女将と直美ちゃんの丁々発止のやりとりを聞きながら飲むのがうまい。
女性ひとりでも安心して入れる優しい店だ。(本文/天文館の犬)
焼鳥処ちゅう馬
住所 鹿児島市山之口町8-24 まるはビルB1
電話 099-224-0736
営業時間 18:00〜23:00
定休日 日曜日・祝日