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鹿児島天文館酒場巡礼



ただ座って酒を飲むばかりなり

第51回 居酒屋めぐちゃん

ただ座って酒を飲むばかりなり_a0070493_13345542.jpgよくもまあ、こんな狭い敷地に店を並べたものだ。はじめてその風景に出くわしたとき、正直そう感じた。市電に乗って市内の方々をうろうろしていたんだ。降りたのは南鹿児島駅前。地名でいうと南郡元ということになるのだろう。

南鹿児島駅前電停から二軒茶屋に向かって、旧谷山街道を歩いた。ものの3分も歩かないうちに、その長屋が姿を現した。市電の軌道敷と旧谷山街道の隙間、そう隙間だ、の狭い敷地に7軒もの居酒屋が並んでいた。どの店もおそらく10坪はあるまい。南鹿児島駅から二軒茶屋に向かって、「もぐら屋」「秀ちゃん」「しず」「とまり木」「めぐちゃん」「京子」「ふくちゃん」そんな小さな店が肩を寄せ合うように並んでいるのだ。経営者や店の名前は変わっても7軒の店が並ぶのは、昔からの風景だそうだ。だからこの酒場長屋を土地の人は「七軒長屋」と呼ぶそうだ。

ただ座って酒を飲むばかりなり_a0070493_13361081.jpg時計を見ると、午後7時前だった。が、店を開けていたのは「めぐちゃん」と「とまり木」の2軒だけだった。飛び込んだのは「めぐちゃん」。なんとなく名前にひかれたのだ。歴史の古い「七軒長屋」で開店して6日目という新しい店だった。東京新宿で酒場をやっていたママが、故郷に帰ってはじめた酒場だ。もとは脇田電停の近くでやっていたらしい。
「でも、店が広すぎてね。人を雇うほどもうからないし…」ということで、「七軒長屋」に越してきたのだと。

たしかに、ここならママ1人でやるには手ごろな広さだ。7人も入れば満席になるカウンターだけの小さな店。奥行きは3メートルほどか。壁の向こうは市電の軌道敷だ。時々市電が通ると、ゴォーと腹の底から響くような音がする。それもまた郷愁そそられるBGMになる。背中は壁1枚隔てて旧谷山街道だ。こちらはひっきりなしに車が通る。いかにも、という感じの酒場らしい酒場だ。

「小さな酒場だからね、たいしたものはないよ」と、手料理を何やかやと出してくれた。品書きを見ると、どれもママの手料理だった。懐かしいクジラのベーコンがあったのでそれをもらう。飲むのはもっぱら焼酎お湯割り。むつかしいことは何もない。ただ、カウンターに向かって座り、小鉢をつつきながらお湯割を飲む。それだけでいいのだ。

ただ座って酒を飲むばかりなり_a0070493_13371161.jpg「めぐちゃん」はママの名前ではなく、飼い猫の名前だという。名前など聞かなくても酒は飲める。それ以上は聞かなかった。カウンターの端に若い先客がいたが、お茶ばかりを飲んでいる。開店して間もないので、どんな客が来るか不安だからと息子さんが「用心棒」役を買って出ていたのだ。さしづめ私は合格といったところだろうか、にこやかに会話をしてくれた。

開いていたのは2軒だけだったというと、「七軒長屋」の開店は7時過ぎだという。居酒屋なのに遅いじゃないかというと、「だって朝4時までやってるもん」って。7軒とも開店、閉店は同じ時間だそうだ。

昔の話を聞くと、ママは「私も受け売りだけど」と前置きしながら、三和町や真砂で紬の機織をしている職人さんたちが、仕事明けに自転車で飲みにやってくる酒場街だったそうだ。「いまはだいぶ様子もかわったようだけどね」と。

時計を見た。10時をまわっている。3時間も腰をすえたようだ。その間に焼酎の5合瓶を1本と、会話をたっぷり。7軒とも入って見るつもりだったが、またにしよう。今夜はこれくらいで……。

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居酒屋めぐちゃん
住所 鹿児島市南郡元27-31
電話 099-286-4539
営業時間 午後7時~午前4時
定休日 日曜日
by tenmonkan_sakaba | 2008-06-15 13:47 | その他
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天文館酒場ガイド

by tenmonkan_sakaba
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へべれけになってるのは
天文館の犬=清水哲男
1954年 京都市生まれ 同志社大学文学部哲学及び倫理学科専攻卒業
卒業後職を転々とし各地を放浪の後、1980年頃より執筆活動をはじめる。
主に市井の人々の暮らし、労働の現場に入り、自分が見たこと、聞いたこと、体験したことを頼りに思考し書き続けている。1997年より鹿児島市在住。
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放浪ネコ=能勢謙三
1950年9月、鹿児島市生まれ。
一応、市内の会社に勤めながら、盛り場探訪を第2の仕事とする。
天文館に限らず騎射場、西駅付近にも夜な夜な出没。
アトランダムに歩き回ってはダラダラ酒を飲み、街と人を観察している。 野宿することもしばしば。
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