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鹿児島天文館酒場巡礼



その男、「粋」がただよう

第33回 寿司割烹いっせい

その男、「粋」がただよう_a0070493_13482350.jpg鹿児島でこの人、宮内一声さんの名前を知らないと言えば、まず、モグリだと言われかねない。それほどの有名人だ。
鹿児島市の夏を彩る八坂神社の祭礼、おぎおんさあ(祇園祭)の傘鉾連、神輿連を束ねる鹿児島祇園睦会の会長でもある。生き方自体が、すでに「粋」なのだ。その自らの名前をそのまま店名にした。
料理は若い頃、京都の名だたる店で修行を積んだ。拙い私の舌をもってしてもも確信できる。腕はたしかだ。店構えを高級に設え、お高くとまっているそこいらの寿司、割烹店とはずいぶんちがう。飾り気はないが、落ち着きのある店内。ああ、飾りのないことがいちばんの「もてなし」なんだと、この店で知った。10人も座れば満席になるL字型のカウンター。ガラスのネタケースなど置いてはいない。氷を敷いた上に木製の舟を置き、その日のネタを並べる。だから、凍ったままの刺身など出てくるはずもない。ちょうど食べ頃なのだ。奥には10人余り座れる座敷がある。
遊びと酒は、若い頃からあちこちで修行、いや、経験を積んできた。腰を据えて飲めば若い衆などぶっ飛ぶくらい飲む。しゃべる。暴れる。しかし、ただひとつ「粋」という点は踏み外さない。これは「気取る」ということではない。「自分自身を生きる」。まさにそんな感じだ。たとえば会話。京都で暮らし、東京でも暮らしたことのある一声さんだが、鹿児島では薩摩弁を崩そうとはしない。
その男、「粋」がただよう_a0070493_1349315.jpg私はここで、自ら注文をしたことがない。黙って座って「お願いします」と一言だけですむ。一声さんは私が清酒を好むことを知っている。だから、鯛の昆布じめであるとか、海鼠酢であるとか、酒にあいそうなものから、いや、「これは酒だ!」と思わせるような料理から出してくれる。まずそれで1合か2合。その間、他に客がいなければ一声さんはカウンターの向こうで腰を下ろし、タバコをくゆらしながら世間話につきあってくれる。それがまた、酒をすすめる。そして鉢や皿がひとつ空くたびに、「きょうは、これが美味いけどね」と、さりげなくすすめてくれる。それでまた、1合か2合。一声さんにもすすめるのだが、10時を過ぎるまで酒は一切口にしない。「だって、仕事にならないんだもの」と奥さんの千帆さんは笑う。ただひとつだけ、この店にくると必ずといっていいほど食べたくなるものがある。さばの棒寿司だ。寿司屋で寿司を食べない私も、こればかりは食べる。いや、つまみになるのだ。それも清酒の。これでまた1合か2合飲んでしまうのだ。
その男、「粋」がただよう_a0070493_13494225.jpgたまたまその夜、神輿連の一番神輿歴代頭がそろって忘年会をしていた。宴会は延々と続き、一声さんも手が空くと座敷に腰をかけて話の輪に入る。そのようにして、同輩、後輩が足繁く通う店なのだ。言葉を換えれば気軽な店でもある。一度、金が無いのに行ったことがある。一声さんは笑って、塩昆布とがらんつで焼酎を飲ませてくれた。金があればあるように、無ければ無いように、そのまま言えばうまく飲ませてくれる。
ところで10時まで酒を口にしない一声さんだが、忙しさの加減もあるが、10時を過ぎると酒の肴をつくりカウンターに腰を下ろす。そして、飲みはじめるのだ。そうして、あっという間に、それまで5合ほど飲んでいる私をおいてきぼりにしていく。鹿児島の夜は長い。(本文/天文館の犬)

*「さば棒寿司」の写真は、井上義雄さんの撮影です。

●寿司割烹いっせい
住所:鹿児島市西田2丁目 【地図】
電話:099(252)1981
営業時間:午後6時〜午後11時頃
定休日:第2、第4日曜日(電話で確認のこと)
# by tenmonkan_sakaba | 2006-12-10 13:50 | 中央駅周辺

安心して、落ち着けて、楽しめる隠れ家

第32回 小料理龍泉

安心して、落ち着けて、楽しめる隠れ家_a0070493_11125654.jpgその店は、ちょっとした隠れ家のようなところにある。天文館、山之口本通からまるで小さなトンネルに足を踏み入れるかのように、ビルの中に入る。目印は表通りに出された電飾看板と、その日のおすすめなどを書いたボードだ。「トンネル」を突き当たりまで。右手がその店、龍泉(りゅうせん)だ。
逆L字型の小さなカウンター。8人も座れば満席になるだろうか。そして、小上がりに3卓。小さな店だが、隅々まで心配りが行き届いている。何もかもがきちんと整理されているのだ。食器棚だって見ていて気持ちがいい。店を飾っていいるのは、すべて女将の手づくりのものやお気に入りの小物ばかり。
聞けば女将は2代目だという。初代の女将が他の場所ではじめて、50年近くになるという。だから、天文館で「龍泉」というと名前だけは知っているという人も多い。
客は老若男女さまざまだ。70歳代80歳の代おじさんたちグループが宴会をするかと思えば、若いカップルが来る。県外からの1人客がふらっと入ってくれば、夜の出勤前のお姉さんたちが腹ごしらえに来る。もちろん鼻の下を伸ばした客を連れた同伴出勤のお姉さんも。先だっては90歳になろうかというご老人が1人で飲みに来ていた。
安心して、落ち着けて、楽しめる隠れ家_a0070493_1113395.jpgしかし、とにかくにぎやかなのだ。店が小さいから、どんな客もつい言葉を交わす。袖すり合うも多生のなんとか、だ。私もここで知り合った人は多い。
もちろん、私の場合はいつも1人だから、カウンターにつく。すっと小鉢がいくつか出てくる。なかでもおすすめはおからだ。ここのおからは絶品だ。おからだけではない。たとえば「龍泉揚げ」。これは言ってみればつけ揚げだが、客の注文を聞いてから揚げるので、いつも熱々でほくほくしたつけ揚げが食べられる。昔は鹿児島ならどこの家でもこんなことをして食べていたんだろうなあと、こころが落ち着く。すべてが割烹や寿司屋などにはない、先代の女将から受け継がれてきた温かみのある料理だ。
安心して、落ち着けて、楽しめる隠れ家_a0070493_11151113.jpg人もいいのだ。たまたま先代の女将がカウンターで飲んでいたのでカメラを向けたら、「私は写真は嫌いなのよぉ」と、きゃっきゃっと笑い声を上げて横を向かれた。アルバイト君たちも、忙しくててんてこ舞い状態になっても笑顔を絶やさず動き回っている。いまの女将のことも書きたいのだが、「私のことは秘密よ」と言うのでやめた。が、笑顔の素敵な女性で、先代同様ファンは多い。
私は時々小鉢だけでイッてしまうことがある。そんなときは500円ですむのだ。焼酎の5合瓶はキープしても1700円。料理もどれも安い。安心して、落ち着けて、楽しめて、あまり人には教えたくないのだが、こんな店もあるということだ。(本文/天文館の犬)

●小料理龍泉
住所:鹿児島市山之口町7-12 【地図】
電話:099(226)0639
定休日:日曜休み
営業時間:午後5時から12時まで営業
# by tenmonkan_sakaba | 2006-12-10 11:15 | 山之口町

「風呂あがりに、すっぴんでビール1杯、の感覚でいらっしゃい」

第31回 BAR宮元

「風呂あがりに、すっぴんでビール1杯、の感覚でいらっしゃい」 _a0070493_9391469.jpg古いものを壊したがる鹿児島市では珍しく戦後の面影を残す「名山堀」。昨年7月にオープンしたばかりというのに、その古さになじんでいる。焼酎が似合う庶民的な飲み屋が軒を連ねる中にあって、違和感はない。新築ではなく、3階建ての長屋風の建物をそのまま生かしているからだろう。
最初この店に入ったとき、夜汽車を連想した。天井が低い。奥行きが浅い。カウンターだけ7席しかない。路地側にあるトイレの天井にはRが付いていて、なおさらその感を強くする。小便をしていると、ゴトン、ゴトンと鉄路の音が聞こえてきそう
「初めてここのトイレに入った人はなかなか出てこない」と店主の宮之元一彰さんは笑う。中にいろんな小物が飾ってあるのも、その理由のようだ。
1人でやってくる客が多い。近くの電車通りに看板を出しているが、探しきれない人もいる。探し当てても、すぐ入ってこない。 「何回か様子をうかがった後、やっと入ってくる。ここに来るまで時間がかかるんですよ」と宮之元さん。
入りにくい店を演出しているわけではない。逆にめざすのは、老若男女がリラックスして飲んでもらえる店。
「女性ならノーメークで、風呂あがりにビール1杯の感覚で来てもらいたい」と店主は考えている。
壁の色をワインレッドにしたのも「この方があったかいかなあ、と」。扉の縦長のガラスを、すりガラスから透明のガラスに替えたのも「入りやすいように」。壁に張った1枚1枚手書きのカクテルメニューが好評。カクテルの名前に、ちょっとした説明書きを添えている。たとえば「Shouko  Milkのカクテル。キャラメル、マリブ、パッション、プラス牛乳」というふうに。客は、カウンターに置いてあるメニューは見ずに、壁の張り紙を見てしまう。
「風呂あがりに、すっぴんでビール1杯、の感覚でいらっしゃい」 _a0070493_9394359.jpg小さな店が肩を寄せ合う名山堀ならでは、隣近所からいろんな音が聞こえてくる。笑い声、カラオケの歌声、階段を上る足音、一升瓶を倒した音。
「初めはうるさいと思ったけど、これがまたいいんですよ。この辺の経営者はあったかい人が多い。天文館に今ないものがここにはある。若い人には新鮮に感じられるのでは」。
宮之元さんは、もともとケーキ職人になりたかった32歳、独身。「しっかりしているように見られるけど、かなり大ざっぱでいい加減」というから、客はまた安心して飲めるのである。(本文/天文館放浪ネコ)


●BAR宮元
住所:鹿児島市名山町4の27 【地図】
電話:090(5746)5629
定休日:水曜休み
営業時間:午後7時から午前3時まで営業
# by tenmonkan_sakaba | 2006-12-08 09:40 | 名山町

2人のおふくろが待ってますよ

第30回 芝楽(しばらく)

2人のおふくろが待ってますよ_a0070493_1711366.jpg西千石町の清滝公園沿いに1軒だけある飲み屋がこの店。周りが暗いから、ぽつんとともるここの明かりが目立つ。看板に「おふくろの味」と書いてある。文字通り、お ふくろさんのいる店だ。
終戦後、満州から引き揚げてきた須藤豊子さんが店を開いた。以来57年続く老舗を今切り回すのは娘の千鶴子さん。娘といってももう67歳になり、常連客から「おふくろさん」と呼ばれる。 店はもともと山下小学校の道路向かいにあった。10年前に立ち退かなくてはならなくなり、今の場所に移った。カウンターだけ10席の、5坪ほどの小さな店だが、前の店よりは大きくなった。店内の壁に立てかけてある黒光りした急な木製階段は、2 階建てだった前の店で使っていたもの。
豊子さんのご主人は病気で昭和34年に亡くなり、その後、母子で支え合って生きて きた。住まいは店の上。この階段は家と職場(店)を結んでいた。2人の暮らしを見守ってきた階段と別れたくなくて、引っ越しのとき持ってきたのだ。
2人のおふくろが待ってますよ_a0070493_17113610.jpg今は店の調理場裏の6畳間が、92歳になった豊子さんと千鶴子さんの住まいになっている。豊子さんの面倒を見ながら、千鶴子さんは店を開ける。営業中も、世話をするため「ちょっとごめん」と客に言って部屋に引っ込むこともある。常連客は、来店すると必ずといっていいくらい「ばあちゃん、元気?」と千鶴子さんに尋ねる。こんな客の気遣いが、2人を支えているのである。
数年前、豊子さんが倒れて入院し、店を閉めなければならなくなった。「このときほど客のありがたみを感じたことはなかった」と千鶴子さん。差し入れや小間使いに複数の常連がせっせと動いた。4カ月後、店の再開を知らせる張り紙を店頭に出したところ、だれが書いたか、オールペンで小さな文字が走り書きしてあった。「待ってました」と。
ぬくもりのある料理が売り。おでん、ゴーヤチャンプル、サバの味噌煮、カレーうどん、魚の煮付け、とんこつなどがよく出る。おでんは1年中ある。早い時間に入ると、刺し身も食べられる。
「芝楽」の「芝」は、豊子さんのご主人が好きだった東京の芝公園から採っている。(本文/天文館放浪ネコ)


●芝楽
住所:鹿児島市西千石町8の21 【地図】
電話:099(222)2584
定休日:日祝日休み
営業時間:午後7時から午前1時まで営業
# by tenmonkan_sakaba | 2006-12-07 17:12 | 西千石町

何だか居心地がいい「取って付けたような」店

第29回瓢亭

何だか居心地がいい「取って付けたような」店_a0070493_15351687.jpg「ひさごてい」と読む。
ナポリ通り沿いにある県医師会館の横筋を入ると、すぐ現れる。隣のビルに寄生したような、小屋みたいな平屋建て。店主の酒匂大志さんに言わせると「取って付けたような」店だ。
もともとここは、駐車場だったらしい。建物ができて何軒か店が入れ替わった。「私の店になってやっと落ち着いたみたい」と酒匂さん。平成6年1月にオープンしたというから、もうすぐ丸11年になる。
店の前には1本の木が茂る。ちょっとおしゃれなアプローチだ。ドアを開けて入ると、奥に長いL字型のカウンターが迎える。8席あり、突き当たりがトイレ。これだけの店かと思ったら間違い。調理場の奥に1畳半ほどの座敷があり、詰めれば4人座れる。知る人ぞ知る隠れ部屋である。
マスター自己流の料理が出るのが特徴。「腹は空いてる?」の問いかけに「うん」とか「はい」と答えると、勝手に次々料理が出てくる。小鉢、前菜、炒め物、めん、乾き物の5品が基本。めんはパスタだったり、そばだったり。「要するに、ある物で作る。昼テレビで見た料理を夜出すこともあります」と酒匂さんは明かす
正午から2時まで日替わりランチ(650円)もやっていて、近くの会社に勤める常連の田原達也さんは「昼も夜も来る」と言う。客は男7、女3の割合。酒匂さんの息子の邦大さんが加わる遅い時間は、20歳前後の客が多くなる。
いつもジャズやロックが流れている。カウンターの隅に100枚ほどのCDが並ぶ。
半分は田原さんが持ち込んだもの。「好きなようにやらせてくれるからいい」らしい。酒匂さんは、いつもボタンダウンのシャツに毛糸の帽子をかぶり、50歳という年を感じさせない。のんびりとした口調。丸めがねの奥の目は穏やかに笑っている。何だか居心地がいいのは、こんなマスターのおかげに違いない。(本文/天文館放浪ネコ)


●瓢亭
住所:鹿児島市中央町7の3 【地図】
電話番号:099(258)5907
営業時間:午後6時から午前3時まで
休日:無休
# by tenmonkan_sakaba | 2006-12-07 15:37 | 中央駅周辺


天文館酒場ガイド

by tenmonkan_sakaba
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へべれけになってるのは
天文館の犬=清水哲男
1954年 京都市生まれ 同志社大学文学部哲学及び倫理学科専攻卒業
卒業後職を転々とし各地を放浪の後、1980年頃より執筆活動をはじめる。
主に市井の人々の暮らし、労働の現場に入り、自分が見たこと、聞いたこと、体験したことを頼りに思考し書き続けている。1997年より鹿児島市在住。
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放浪ネコ=能勢謙三
1950年9月、鹿児島市生まれ。
一応、市内の会社に勤めながら、盛り場探訪を第2の仕事とする。
天文館に限らず騎射場、西駅付近にも夜な夜な出没。
アトランダムに歩き回ってはダラダラ酒を飲み、街と人を観察している。 野宿することもしばしば。
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