●第23回 食酒楽哲太
「巡礼」に登場する店は、私が足繁く通った店ばかりだ。1度や2度ではその店のなんたるかがわからないからだ。だが今回紹介する「哲太(てった)」はまだ2度しか足を踏み入れたことはない。正式な名前は「哲太食酒楽」というそうだが、みんな「哲太」と呼んでいる。
天文館の真ん中、ビルの2階。やっているのは若い夫婦。そう聞いて期待せずに出かけた。いま流行の創作料理の店なんだろうなあ、と。私はどうも、その創作料理というものが好きになれない。妙に手を入れているくせに、それがかえって味を台無しにする。器や盛り付けをどんなにきれいに見せられても、うまくないどころか酒もすすまない。だから「創作料理」と看板にうたっている店には必ずといっていいほど入らない。だが、哲太の小さな看板には、どこにも創作料理を臭わせるようなものはなかった。
細い階段を上がると入り口の前に小さな黒板が。本日のオススメというところだろう。店内はカウンター7席と小上がりに少々広いめの3卓。客の年齢層は高い。
カウンター席に腰を下ろし店内を見渡す。普通の割烹だ。いや、若い夫婦、福島哲郎さんといくみさんの気さくな人柄をだぶらせれば小料理屋といった方がいいかもしれない。
「おっ、立山があるなあ」
白版に日本酒が書かれている。一の蔵、常きげん、菊姫…。いろいろあるが、私が好きなのは立山だ。アルプスの地下をくぐってわき出た雪解け水が、うまい米と酒造りの心に触れて魔法の水に生まれかわった、そんな酒だと私は思っている。こうなるとあとは肴だ。大層なものはいらない。ちょっとずつつまみながらゆっくり飲めるようなものがあれば…。
その夜はこのわたとほやの塩辛にした。それだけあれば4合は飲んでしまうだろう。連れがもう一品、「秋太郎をちょっと炙って」とくる。いいねえ。
「はいよ」と答える哲郎大将の横でいくみ奥さんがきれいな水菜を洗っていた。つい声が出てしまった。
「ごめん、その水菜、薄揚げと煮浸しにして」
聞けば品書きにはないが、くちこもおいているという。
ああ、また、日本酒がうまく飲める店を見つけた。うれしい夜だ。
●食酒楽哲太
鹿児島市千日町2-3-2F
【地図】
電話 099-239-4565
営業時間 午後6時〜翌2時
定休日 不定休