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鹿児島天文館酒場巡礼



なつかしい街の名にひかれて

●第27回 Whisky House DOFFTOWN(ダフタウン)

なつかしい街の名にひかれて_a0070493_13371850.jpg昔、あるバーテンから教えられた。
「ええか、あんた。酒飲みちゅうのは、酔っぱらいのことやないで。1杯の酒を飲むにも、自分のこだわりを押しとおす。それがほんまもんの酒飲みちゅうもんや」
そのバーテンは、その後しばらくして他界したが、私の胸の奥底でいまもその言葉はどっしりと腰を据えている。
うまいギネスビールが飲みたい。これは鹿児島に来て10年、ずっと思い続けてきたことだ。
ショットバーをあちこち巡った。カウンターにつきギネスをオーダーすると、バーテンは決まって何も言わず、缶か瓶を抜く。ああ、また、だめだ…。私が探し求めているのは、樽から注ぐ生のギネスなんだ。そんな思いを何回くり返してきたことだろう。だから近頃はバーに入っても、めったにギネスはオーダーしない。
ところが、ついに生樽をおいたバーにたどり着いた。
何気なく小さな雑居ビルの看板を見上げた。

DUFFTOWN

そんな文字が目に付いた。ダフトン…。スコットランドの小さな街の名前だ。街は小さいけれど、たしか7つ、8つ蒸留所があったはずだ。そんな名前を着けているならひょっとするとと、ビルに入った。目指すは5階だ。
が、エレベーターを降りるとなんの飾りもない無愛想で分厚い鉄のドアが。なんだか期待できないなと思いながら、静かにドアを開けた。さいしょに目に飛び込んできたのはきれいに磨かれたカウンターだった。どうやら私がその日初めての客だったようだった。
バックバーも整然とボトルが並べられている。そして、静かだ。これも件のバーテンから教えられたことだが「Study to be quiet〜静かなることを学べ」、だ。静かであることは、いいことなのだ。そして、長いカウンターの中央に、ギネスのサーバーが。
「いらっしゃいませ」と小さな声でバーテンが出てくる。
「ギネスの生はありますか」
「はい、ございます」
「じゃあ、それを」と言いながら、胸はわくわくする。
「グラスのサイズは」
「パイントで」
ここからが待つ喜びなのだ。うまいギネスを飲むためには、決して焦ってはいけないし、「とりあえずビール、それもギネスね」などという輩は飲んではいけない。バーテンはゆっくり時間をかけてギネスを注ぐ。おおよそ2度に分けて注ぐのが普通だ。注がれたギネスが目の前に出された。おお、トップにはシャムロックが描かれているではないか。ここまでくればご機嫌だ。が、私は恥ずかしながらサージングが待ちきれなかった。
しかし、やはりギネスの生はうまかった。3口ほどで飲み干してしまった。件のバーテンなら、「ゆっくり飲め」とたしなめられたことだろう。
店主の馬場功さんと2言、3言会話をする。決して目を合わせようとはしない。近すぎず、遠すぎず、心地よい距離だ。
なつかしい街の名にひかれて_a0070493_13375248.jpgここでバーを開けて、もう15年にもなるという。どうしてもっと早く出会わなかったのだろう。鹿児島にきてからの10年を、バーに通うという意味では無駄に過ごしてきたようだ。「DUFFTOWN」は「ダフタウン」と発音するそうだ。はるか昔、大学を卒業した頃少しだけイギリスにいたことがある。その時、スコットランドにダフトンという街があり、うまいウイスキーをたくさんつくっている街だと聞いたことがあったから、そんなふうに思ったのだろう。
ドライマティーニをベリードライで飲み、さらにラフロイグ(10y)を1ショット、最後にボンベイでジントニックを1杯。それで引き上げてきた。
でも、ちょっと残念だったのは、ジンにプリマスがななかったことだ。ささいなことだが…。(本文/天文館の犬)

●DUFFTOWN
住所:鹿児島市千日町9-13 紫雲ビル5階 【地図】
電話:099-225-9928
営業時間:19:00〜3:00(日曜日は1時まで)
定休日:無休
by tenmonkan_sakaba | 2006-12-01 13:39 | 千日町
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天文館酒場ガイド

by tenmonkan_sakaba
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へべれけになってるのは
天文館の犬=清水哲男
1954年 京都市生まれ 同志社大学文学部哲学及び倫理学科専攻卒業
卒業後職を転々とし各地を放浪の後、1980年頃より執筆活動をはじめる。
主に市井の人々の暮らし、労働の現場に入り、自分が見たこと、聞いたこと、体験したことを頼りに思考し書き続けている。1997年より鹿児島市在住。
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放浪ネコ=能勢謙三
1950年9月、鹿児島市生まれ。
一応、市内の会社に勤めながら、盛り場探訪を第2の仕事とする。
天文館に限らず騎射場、西駅付近にも夜な夜な出没。
アトランダムに歩き回ってはダラダラ酒を飲み、街と人を観察している。 野宿することもしばしば。
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